たたかう飲食店~新型コロナをぶっとばせ!~

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「HERO'S☆CAFE」(甲賀市水口町)

 水口高校の正門前に建つ「HERO’S☆CAFE」は、女子高生からママ友までたくさんの女性が集まるお洒落なカフェ。

 店内には革張りのソファが並び、緩やかな空気が流れる。大量にストックされた本は実用書からコミックまで4000冊以上が並ぶ。本好きでなくともゆったりと過ごせる店だ。

「やっぱりのんびりと本を読まれるお客さんは多いですね。女子高生の子は本とスマホを行ったり来たりして忙しそうですけど」

 

 平日の開店前、オーナーシェフ兼マスターの杉江広志さんは屈託なく笑う。

 ご夫婦二人で店を切り盛りしているが、マスク越しにもお二人の人柄が伝わってくる。

 そんな朗らかなマスターだから、女性だけでもリラックスして過ごせる店に仕上がっているのだろう。

 

 そんなHERO’S☆CAFEも、巨大な”敵”に襲われた。

 新型コロナウイルスの猛威だった。

 

「一気にお客さんが減りました。さすがにゼロというわけではないけれど……」

 

 HERO’S☆CAFEのような個人経営店は、もしもの際のプール資金が少ない。チェーン店とは違い、大量仕入れによるコスト削減や余剰在庫の確保が難しい。スケールメリットが活かせないのだ。

 だから個人経営店はコロナ過では二重、三重の資金難に陥りやすい。実際、廃業する店も少なくない。

 

 だが、杉江さんの対応は素早かった。

 とにかく店内にコロナウイルスを入れない──そのために来店時の検温とアルコール消毒を準備し、隣席との間にビニールカーテンも設置した。濃厚接触者の追跡に使われる『もしサポ滋賀』にも登録した。レジ前と客席には加湿器や空気清浄機を可能な限り配置した。

 お客さんの不安を取り除くことに必死だった。

「それでもやっぱり怖いですよ。いくら徹底して感染対策を取っていても、こればっかりは目に見えませんから」

 

 見えない恐怖。だから人々の不安は増幅される。

 新型コロナウイルスの本質は、この見えない恐怖から来る「得も言われぬ不安感」なのかもしれない。

 

 コロナ禍でもさまざまなアイデアでお客さんを呼び戻すことを続けてきた杉江さん。

 これまで「来てくれればいいな」という軽い気持ちで更新していたウェブサイトに本腰を入れて取り組み、メールマガジンでは「一品無料」などが当たる抽選も実施。コストはかかるが、店に足を運ぶ動機づくりにもなる。スマホに向かう時間が増えたお客さんはこぞって抽選に参加してくれた。

 

「コロナ禍になって時間だけは嫌というほどあったので、とにかく頭を使いました。どうしたら安心して店に来てもらえるのか、そのためには何をすればいいのか」

 

 いつもは笑顔の杉江さんが、真剣な眼差しを向ける。

 

「でも、お客さんが戻ってきても、万一ウチで感染する人が出てしまえばそれこそ一巻の終わりです。だから、お客さんを集めつつ感染対策を徹底的にしなきゃならない。お客さんを守ることが店を守ることにつながる。そう考えました」

 

 巷には、HERO’S☆CAFEのように万全の感染対策をとっている店ばかりではない。

 だが、客の立場からすればそれも食べに行く店を決めるひとつの”線引き”になりうる。

「こういう言い方が正しいのかわからないけど、新型コロナが改めてお客さんと向き合うことを教えてくれた。自分でチラシを作って近隣に撒いたり、テイクアウト用のメニューも作り直したり、持ち帰り容器も多少コストがかかっても冷めにくいものを使ったり……これまで見過ごしてきた部分を再度考えさせられた1年でしたね」

 

 その素早い対応とアイデアで、今はコロナ禍前に迫る勢いでお客さんが戻ってきているという。

 

「ディナータイムはまだ厳しいけど、それでもテイクアウトがグッと伸びてるので、売上的には新型コロナが出てくる前の水準まで戻ってきています。コロナ禍で足が遠のいていたご年配のお客さんも少しずつ戻ってきてくださってるんですよ。本当にありがたいです」

 

 いっぱい頭を使ってきたおかげですかね、と杉江さんは笑った。

 集客のメインツールであるメールマガジン読者も1200人を超え、着実に一歩ずつ「あの頃」に戻りつつある。

 

 まだまだ予断を許さない新型コロナウイルスの猛威。

 それでも、HERO’S☆CAFEは万全の対策を施して、今日もお客さんにおいしい料理とゆったりした時間を提供している。

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