商工会青年部が終わったと思ったら……
──本日はよろしくお願いします。
畑中 お願いします。僕でいいんですかね?(笑)
──畑中さんでないと困ります。(笑) まずは簡単に経歴を教えていただけますか?
畑中 甲賀市商工会の青年部というところで19年間、役員などをやらせてもらっていて。それで45歳になったので青年部の定年に抵触するということで、役員を下りました。
──定年ってあるんですね。
畑中 一応決めとかないとずっと居座り続けることができますから。(笑) で、その任を全うしたあとに自治振興会から声がかかったんです。「お前、青年部抜けたんやったら暇やろ。こっち手伝え」みたいな。
──かなり雑な誘い方ですね。
畑中 声をかけてくださった方は勝手知ったる仲ですからね。暇ではなかったんですけど。(笑)
──やっとゆっくりできると思ったのに。(笑)
畑中 たぶん性分なんでしょうね。何か地域のために動きたい、みたいな部分がずっとあって。『僕でお力になれるなら』とお引き受けしました。
『こうかマルシェ』の誕生秘話
──自治振興会ではどういうお立場だったんですか?
畑中 当時の会長が「若い人の活躍できる場を」という思いから”若者プロジェクト”という組織を作られるということで、そこのリーダーをやらないか? というお話でした。いきなり荷が重いとは思ったのですが、商工会青年部の経験もあるのでまあ何とかなるかなと。
──”若者プロジェクト”のリーダーに就任されたあとは、どのような取り組みをされたんですか?
畑中 最初にメンバーから出た意見が「JR甲賀駅前が寂しいので何とかしたい」でした。確かに駅もきれいだし人流もあるんだけど、賑わいがなかったんですよね。
──確かにJR甲賀駅前は少し寂しく感じますね。
畑中 そうなんですよ。県道まで出ればお店はいっぱいあるんですけどね。そこで出たアイデアが「マルシェ」(小規模商店街)でした。
──駅前で出店を出そうと。
畑中 実際、趣味で小物を作ってたり飲食店も駅から遠かったりすると、販路の確保に困るという話は聞いていました。土日には市外どころか県外まで出張販売する方もいたほどです。JR甲賀駅でマルシェができれば、そういう方たちの販路のひとつになれるのではないか、という期待もありました。
──まさに地域の課題を解決できる施策ですね。
畑中 それで企画段階から各所に掛け合って、何とか開催にこぎつけました。ただ、開催してみていろいろわかったこともあって。
──というと?
畑中 駐車場問題です。マルシェに来ていただけるのは嬉しいのですが、ちょっと買い物するつもりで駅の近くに止めるお客さまがおられる。駅前という場所柄、バスやお迎えの車がひっきりなしで入ってくるので、そういう本当に必要な方たちが停められない、という問題が発生しました。
──知り合いが出店していたら話も長引きますしね。
畑中 そうですね。悪気はないんでしょうけど……ただ、駅近くのコンビニに停める方もいたそうです。そうなると駅前での開催は難しいね、となって、場所を移動することになりました。それが現在、鹿深夢の森で開催されている「こうかマルシェ」です。
──なるほど! あそこなら何百台も停められますしね。
畑中 今は新型コロナがあって開催できないときもありますけど、おかげさまで最初は12~13店舗だったマルシェが今は毎回30店舗近くの出店があって、かなりの賑わいになっています。
”次”のステージへ
──それはかなりの規模ですね。
畑中 それくらいお店があると盛り上がりがすごいというか、お客さんも出店者も笑顔がいっぱいなんですよね。もうそれを見ると「本当にマルシェを始めてよかったなあ」と思います。
──こうかマルシェはもうなくてはならないもの、というか。
畑中 そうですね。ありがたいことに地域の方々もご協力くださってますし、本当にしっかりと成長できたのではないかと思います。
──”若者プロジェクト”の成果ですね。
畑中 でも、またプロジェクトで新たな事業を立ち上げることになったんです。
──えっ!? ではこうかマルシェはどうされたんですか?
畑中 こうかマルシェはマルシェの運営を担当する独立した部ができたので、そこに一任しました。若い子はやる気のある人ばかりなので安心して任せてあります。次の事業は大原自治振興会が携わる「やまの健康」事業に若者プロジェクトとして関わることになりました。
──「やまの健康」事業?
畑中 この甲賀町大原地域というのは、今僕たちがいる街中(まちなか)もあれば、少し車で走ると自然豊かな里山もあり、本当に住みやすく緑豊かなところなんです。その一方で、地域のいいところというのが本当に皆さんに届いているのかな、と思う時もあります。
──大原地域がもっとクローズアップされてもいいんじゃないか、と。
畑中 そうですね。それには、地域のセールスポイントをわかりやすく提示していく必要があるのかな、と。そこで目を付けたのが「山」なんです。
地域の資源を活かしたい
──山、ですか。
畑中 先ほどお話し通り、大原地域には豊かな自然があります。特に里山は県の管理地域で、普段は獣害や不審者対策でゲートが閉まってるんですね。それはもったいないんじゃないかな、と考えて、県や市と掛け合って山に入る許可をいただき、実際に現地視察に行きました。
──すごい行動力ですね!
畑中 寝かしておくことができないというか、のんびりしていたら忘れちゃうので。(笑) 思い立ったら行動するようにしています。で、実際に山に足を踏み入れて驚きました。「こんな素晴らしいところが地域にあったのか!」って。
──(写真を見せてもらう)広っ! おまけにしっかり整備されてますね。
畑中 やっぱり県のほうできちんと管理されていたからだと思います。途中に作業員さんの休憩所らしき建物があったんですが、中は囲炉裏が二つあって本当にきれいな状態なんですよ。ドアが壊れて開けっ放しになっていたのに動物が入った痕跡さえないし、まるで「ついこの前まで使ってました」みたいな感じなんですよ。
──確かにきれいですね。
畑中 おまけに、この近くには桜がたくさん植えてあって、近くに川もある。春はお花見にぴったりだと思うんです。写真以外にもベンチがある広場もあったり、もう少し広いスポーツができそうなエリアもありました。
──こんないいところがゲートで閉じられているなんてもったいないですね。
畑中 そうなんですよ! こんないいところを休眠させておくのはもったいないじゃないですか。だから、地域資源の「山」を活かしていこうと考えました。
──何かに活用できないか、ということですね。
畑中 だから、ここにバーベキューができるキャンプ場や自然の遊び場を作ったら、若い人やファミリー層が大原地域に来てくれるんじゃないかな、って考えているです。若い人たちが増えると街に活気が生まれる。それは「こうかマルシェ」で経験済みです。活気が生まれると街全体が明るくなる。そうすれば、地域の子供たちが社会人になったときに『やりたいことのためには都会に出なきゃいけない』という中に『生まれ育った地域で頑張ってみる』という選択肢が生まれるんです。究極はそこなんですよ。
──今はネット全盛で、リモートで仕事をするのが当たり前になってきています。確かに”都会一択”ではなくなってきてますね。
畑中 やはり地元は大切にしてほしいし、できれば若い人たちに地元を盛り上げてもらいたい。僕たちはそのための基礎工事をしているような感じですね。若い人たちの居場所作りというか。
別世界での贅沢な時間を提供したい
──それがこの「やまの健康宣言」につながるんですね。
畑中 ”若者プロジェクト”のメンバーは本当に熱い仲間が多くて、こんなことやろうと思うねんけど……とひとこと言えば「ああしたら」「こうしたら」「こんなことやりましょう」「あんなことできますよ」と10も20も意見が返ってくる。そんな仲間に助けられながらまず第一歩として作ったのがこのパンフレットです。県のほうにも「こんなことしたい」という企画書を提出して、補助金を出していただくことも決まりました。
──もうそんなに動いてるですね。
畑中 言ったじゃないですか。時間経つと忘れちゃうって。(笑)
──それでも畑中さんのスピード感には脱帽します。
畑中 本当にいいですよ、山の中は。街中の喧騒もどこ吹く風ですから。川のせせらぎを聞きながら飲むコーヒーは格別ですね。
──ある意味、贅沢な時間ですね。
畑中 そうなんですよ。これは本当に不思議な感覚なんですが、現地に行って思ったのは「新型コロナって何だったんだろう」なんです。街中では『密になるな』ってギャーギャー騒いでるのに、少し登った山の中では全くそんなものが気にならなくなる。そりゃそうですよね。「密」になりようがない。(笑)
──木しかない。(笑)
畑中 そういう意味では、まさに別世界なんですよ。もちろんキャンプ場を作ったら感染防止対策は万全にしますけど、もう気の持ちようが違う。鳥のさえずりや木々のざわめきが疲れた心を癒してくれる……そんな贅沢な時間を提供したいですね。
──それが今の畑中さんの取り組みなんですね。
畑中 僕だけじゃなくみんなの取り組みでもあります。僕一人じゃ何もできない。みんなに助けてもらいながら、少しずつ地域を盛り上げていければいいですね。
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